2010.6.16 _ 2010.6.27
「カワハリ星」とは、野尻抱影の著書「星三百六十五夜 冬」の「七草」という文章の中で出てくる星の名前です。
夜明け前の3時, 4時頃に南の空にムジナの皮を張った形に輝き、炭焼きや馬方が「カワハリが出たで、起きるんだべし」と、時刻を知る目印にしていた、と書かれています。一般には「烏座」と呼ばれるそうです。 野尻抱影は、カワハリ星という名前について、星を貧しい暗い名前で呼ぶ人々の生活にがっかりしています。 私は、この星の名前と自分の作品が似ているように思います。 私はこの星の名前を気に入って、度々思い出します。
私の作品のモチーフの多くは、女性と妖精のような存在(自分を投影している)、女性の想う相手の男性、精神病院です。
そして、一つとして固有の風景を記憶していない、なのに何度も何度も思い出す、山と海と空。 それらは、私の日々の背景に、ほぼ常に寄り添ってきたものです。
私は思い出します。病室や、風呂、ランチルームを。ですが、それらは、描かれた時にはすでに遠い星です。 私は、夜な夜な自らの記憶を空に打ち上げては眺めます。
光(記憶)をたどって星に降り立てば、多分生きていくことはできない。
作品は、過去にはならなくて、生成され続けるバラッドや民話、神話のようなものだと思います。そういうことからも、星に似ていると思います。
私には私以外の人の事ははっきりとわかりません。ですが、星の並びを見て「カワハリ星」と名づけた人々は、厳しい生活に寄り添う労働の「皮張り」という作業を、空に打ち上げたのかもしれないと思います。
<記> 山田 七菜子
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iTohenにて第171回目となる展覧会では、作家:山田七菜子(やまだななこ)氏をご紹介致します。
2008度の公募展[おんさ]に参加して頂いたのを契機に、彼女の活動を知りました。
その後、中村浩一郎 氏との2人展[三寒四温]や個展、[さようならとはじめまして]という事業活動内で彼女の作品に立て続けに出合うことになります。
音、平面、立体・・・発表する場所や状況が変われば、それに呼応するかのように自ずと変化していく山田七菜子の作品。その柔軟な姿勢が非常に魅力的に思え、創作行為そのものを純粋に楽しんでいる作家だと感じました。
今展のタイトル『カワハリ星(烏座<からすざ>の星名として呼ばれている)』。
獣の皮を広げ壁に打ち付けた姿形から引用された星名ですが、山田は一見残酷にも思えるこの名前から原初的な生命力を感じたと言います。
“ある物語”と“自身の記憶”を交差させ、また新たな<物語>を創りあげていく。この繰り返しが彼女の作品をどんどん変容させていくのでしょう。それは私たちが日々呼吸し、細胞を更新して行くように、彼女自身をも変えて行くのかも知れません。
彼女の作品に登場する、小さな人々。その光景が“ある物語”と軽やかに遊び戯れる
山田本人の姿に見えてしまうのは私だけでしょうか。
新作を含め、大阪では未発表の作品を携えての本展。
是非、この機会にご高覧下さいますよう宜しくお願い致します。
<記> SKKY/iTohen 角谷 慶
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山田 七菜子 Nanako Yamada
1978年
個展 グループ展 2008年 2009年 |
京都府生まれ Oギャラリーeyes(大阪) 三寒四温(GALLERY wks・大阪) |