その２００２／２００３受賞作品集の中でひときわ彩度の低い絵を見かけた。雑誌面を飾るべく活躍するはずのイラストレーションと認識してただけに、すこし意外な部分を見せつけられたようで驚いた。イラストであるとか、アートであるとかそんなカテゴリーを全く無視したかのような出で立ち。それが＜吉實恵＞の作品だった。
それはすでに自立した絵画のように感じられた。 その公募展を機に色々な媒体で見かけるようになった。活動こそ地味だが確実な仕事を自分の歩幅で進めている。制作スタイルまでは拝見していないが彼女は、ざっくりとした水彩用紙に割とざっくりと潔く絵具をのせて行っているように感じる。しかし、足し算のみで構成された絵でないことは確かだ。それだけに彼女の作品は無垢で静かな言葉を感じるのだ。 彼女の生活の拠点は東京だが意外にも個展自体が初めてのことで、弊廊での企画となる今展が彼女の記念すべき第一回目となる。 ［滲む、交わる。］と提示してきた吉實恵は普段の生活の中で、とにかく一人で歩く時間を大切にしてると言う。遠くの外国でもごく近所でも特別際だって良い景色ではない、どちらかと言えばつまらない郊外の風景に惹かれるそうだ。 歩いていると、空や建物や道行く人から何かが滲み出て小声で呼んでるような錯覚に陥ることがあるという。 どうやら吉實恵は、そういった言葉にならない事柄を放って置くことはせず＜絵＞という表現手段に置き換えて表現しているに違いない。