幣廊では第2回目の個展となります、関西を拠点に活動する作家:後藤慎二をご紹介いたします。
制作を続けていく中で、励みになることは?と素朴な質問を彼に投げかけた。すると「僕の絵を観て笑顔を見せてくれることが一番の喜びだ。」と即答で返ってきた。
後藤は昨年、自身初となる自費出版本[福吹 Fuku Fuku]を刊行した。彼が常に制作の根底に忍ばせている「みんなに幸あれ。みんなに福あれ。」という非常に明解なコンセプトを基に作り上げたものだ。
当然、彼は一貫して この勝手に始めた<奉仕>を静かに、しかしながら情熱を傾け 続行している最中である。積極的にモチーフとして取り上げるものは動物や昆虫、人や日常に溢れるモノといった、日頃よりよく目にするものばかりだ。いわゆる現実世界に存在する”何か”なのだ。
しかしそのほとんどが写実的ではなく、たいそう派手にデフォルメされ、実存ではない”何か”に変貌を遂げている。写実的なものが必ずしも鑑賞者への”親切な”伝達方法とは言い難いように後藤の作品を観れば観るほど感じてくる。それは古代の人々がもしかして獲得していたかも知れない<第六感>を取り戻し、また感覚的に嗅ぎなおし表現し直しているのかも知れないと思えてくるからである。
観る側の感覚を時間や空間を含めたあらゆる角度から複眼的に捉え 彼なりの<奉仕>の独特なフレーバーを混ぜ込みつつ”純粋に”他者へと伝達できることが可能なのではないかと気付いているのかも知れない。
後藤の作業は、表舞台とは裏腹に非常に綿密だ。<絵>というよりはあたかも設計者のそれのような<図面>を引いている様子なのだ。しかし、出来上がったものにその側面は見られず、むしろ言葉に言い換えられない面白みや旨味がある。しかもそれはたっぷりと滋養がありそうだ。
彼の作品を鑑賞者との関係を考えた時、漫才や落語とかいった場の持つ「笑い」の期待感が会場内に充満している様を想起させる。
もう何をやっても面白い。それこそ「はしが転んでも・・・」の心理的状態に彼は引きずりこんでいくのだ。 このように考えた時、エンターテイナー性に長けた「芸人」とも言えるのではないかと思えてきた。 話術や身体を使ったパフォーマンスとはまた違うが、彼の表現には相通じるものを感じてしまう。
そういった意味では、時代の申し子的な新世代の表現者とも言えるのではないだろうか?
私達、人間にとって<笑う>という表現は色々な面でポジティブな現象をもたらすという。 最近では笑いながら行うヨガまであるようで、この関西という土地柄を考えた時 こういった独創的な人物や表現スタイルが登場するのも、とても自然なことではないかと思えてくるのである。
「笑う門には福きたる」
さて、今回はこの世紀末的な不安を感じさせる世の中にどのような”福”を準備し、奉仕してくれるのであろうか、 チケット片手に今から いよいよ笑う準備をして開場待ちする心境である。
<記> SKKY 角谷 慶
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後藤慎二 GOTO,Shinji
1979 大阪生まれ 現在、グラフィックデザイン事務所に勤務。
2004 後藤慎二個展[わくわく図鑑展](iTohen:大阪)
2005 作品集[福吹]刊行
2006 後藤慎二個展[100と5](iTohen:大阪) |