2014.11.19 _ 2014.11.30
iTohenにて第282回目となる今展は、関東を活動の拠点に据える牧野伊三夫(まきの・いさお)さんの新作をご披露しております。また、今展の為に現場で書き下ろした大作も仕上がりました。牧野伊三夫さんって一体、何者?『ヤブクグリ』って何? そんな事を伺い知れる内容になっております。意外にも大阪では初の個展開催となりました。この機会にぜひ、足をお運びください。
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作品について
「ヤブクグリ」というのは、古くから林業がさかんな大分県日田市で産出される杉の固有種の名である。いま、同地の林業は衰退しているのだが、この杉名を会の名にした団体が、なんとかしようと活動をはじめた。私はこの会で小さな冊子を作る係をしている。
「ヤブクグリ」を主題とした展覧会を企画したのは、「いとへん」の鰺坂さんだが、鰺坂さんはこの会のホームページを運営する係をしている。この会の発足のいきさつについては、先月、西日本新聞に原稿を書く機会を得たので下記の記事を、また、この会の活動の内容については展覧会場内にある小冊子「日田ノート(1~3)」 小冊子「ヤブクグリ」「ヤブクグリ活動記」をご覧いただきたい。
林業をテーマにした作品展を行うのは初めてだが、今回取り組んでみて実に豊富な題材があると知った。木材を素材にした立体作品はもとより、木の実や土などの素材、山林の風景、歴史や逸話、そこに住む人の暮らしや仕事。さらには、建築や川や海へと広がる自然環境。また、林業の町には製材所があったり、木を加工する技術を持つ人たちがいたりして、作品を作るうえでも頼もしい。
私はこれまで、ホームセンターへ行って貧しい木材を購入し、都会の片隅で周辺の家々に気づかいながら電動ノコギリを使っていたが、もうやめようと思う。
今回の作品は林業をテーマとしたものの、ほんの始まりにすぎないと考えている。
「木村希八先生へ」は、先週亡くなった版画の刷り師木村希八先生へのオマージュ。私は、学生時代の四年間、エッチングやシルクスクリーン、リトグラフなどの版画に没頭していたが、これは先生のご指導があったからである。あるとき、先生は、下絵を正確に版に写しとり刷っていた私のところへやってきて、版の上にまっ黒い油とインクが混ざっ た汚水をぶちまけ、このまま刷りなさいとおっしゃった。私は、何故、こんなにひどいことをするのかと、泣きそうになりながら刷った。
当然、刷り上がると紙に形の判然としない、ぐちゃぐちゃになった汚水が踊り、その隙間にわずかに描線が確認できた。私は、このスパルタ式の先生のご指導によって、版画芸術上の刷りの面白さに目覚めた。このことは、のちにグラフィックデザインの仕事をするうえでも役立った。
先生には、卒業後も画廊や先生の工房などで様々な創作上の大切なことを教わった。また、私が美術同人誌『四月と十月』を創刊したときも応援してくださった。この仲間たちとの自費出版の共同作品集に後半の取材や執筆記事依頼による記事頁を作るアイディアは先生によるものだ。先生は、自分たちでマスターベーションしたものなど面白がってもらえないから、もっと色々な人に読んでもらえるように工夫した方がよいとおっしゃった。私にとってはかけがえのない恩師だった。
絵皿の作品は、島根の湯町窯で制作したもの。私は四年ほど前に窯の当主の福間琇士さんのお父様、福間貴
士さんのことを『四月と十月』で取材したことがあった。福間貴士さんは、陶工であり、器の絵師でもあって、柳宗悦や濱田庄司、バーナード・リーチらの民芸運動に参加し、工房に中村研一や山下清、熊谷守一といった著名な画家たちを招いて共同制作を行った。
今年の春、私に展覧会の依頼をしていた富山で陶器や雑貨を扱う「林ショップ」の林悠介さんが湯町窯へ仕入れに行った際、偶然、この記事を見つけて、湯町窯で絵付けをする話へと発展することになった。
湯町窯では百三十点の絵付けを行った。技法は福間琇士さんのご指導によるもので、棟方志功さんが行ったという釘で土をひっかいて描く方法だ。
記_牧野 伊三夫
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牧野 伊三夫 Isao Makino
1964年
・福岡県北九州市生まれ
1987年
・多摩美術大学卒業
・「株式会社サン・アド」入社
1992年
・「株式会社サン・アド」退社
・「第9回伊藤廉記念賞展」入選「理論的構造からの離脱」
・自費出版絵本『柿の木 九月五日』制作 ・自費出版本『時計君のうた』制作
・絵画同人誌『四月と十月』を創刊、編集
・「株式会社サントリー」機関誌『WHISKY VOICE』アートディレクション、挿絵開始 ・銭湯愛好会会誌『季刊ふろ会』創刊、編集
2002年
・雑誌『暮しの手帖』(暮しの手帖社)表紙、本文の絵の制作開始
・「東京ステーションギャラリー」での「山口薫展」の広報活動、
図録制作の編集協力(求龍堂)
2004年
・美術同人誌『四月と十月』刊行五周年記念行事として、同人、関係者による「第二回四月と十月展」を企画運営。「青山ブックセンター」(青山)と「ブックセンタークエスト」(北九州市)を巡回
・作曲家三浦陽子とニューヨーク、パリを巡り音楽と絵のコラボレーション制作を
2005年
・群ようこ著『かもめ食堂』(幻冬舎)装丁画
・「いとへんギャラリー」(大阪)にて「第三回四月と十月展」開催
2006年
・北九州市立「子育てふれあい交流プラザ」のための壁画制作
・一ヶ月間マダガスカルへ取材旅行
・情報誌『雲のうえ』(北九州市)創刊、編集委員となる
2007年
・「街じゅうアートin北九州2007」(NPO法人創を考える会北九州)に参加。「TOTO株式会社」小倉工場にて便器素地を加工したオブジェ12点制作
2008年
・「ギャラリーhaco」五周年特別企画として「牧野君のハイボールと里香ちゃんのカクテル」開催 ・雑誌『アイデア』(誠文堂新光社)にて牧野伊三夫特集 ・牧野伊三夫、鴨井岳共著『今宵も酒場部』(集英社)執筆、挿絵、装丁画 ・大竹聡著『もう一杯!』(産業編集センター)挿絵、ブックデザイン ・『週刊新潮』桐野夏生の連載小説「ナニカアル」挿絵連載開始
2009年
・加藤陽子著『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』装画、挿絵 ・山崎豊子著『作家の使命 私の戦後』『大阪づくし 私の産声』『小説ほど面白い ものはない』(新潮社)装画
2010年
・「ヴィオロン」(阿佐ヶ谷)にて「クラリネットトリオとピアノと絵のコラボレーション」 (クラリネット/PORTA CHIUSA、ピアノ/三浦陽子、絵/牧野伊三夫) ・女子美術大学にて美術同人誌『四月と十月』の夏期講座を行う ・「グレープフルーツムーン」(三軒茶屋)にて「音楽と絵の即興コラボレーション」 (バス/PAED CONCA,READ YASSIN、クラリネット/中尾勘二、 ピアノ/三浦陽子、絵/牧野伊三夫)
2011年
・「あいおい古本まつり」(佃)にて音楽と絵の即興コラボレーション (三味線/柳家小春、ギター/青木隼人、絵/ミロコマチコ、牧野伊三夫) ・『飛騨』創刊準備号『キツツキ』制作 ・絵画教室「小石川植物園スケ
2012年
・飛騨産業機関誌『飛騨』創刊 ・田中慎弥著『これからもそうだ。』(西日本新聞社)装画、挿絵 ・「月光荘画材店」(銀座)にて絵画教室の講師を開始 ・ヤブクグリ発足、冊子係となる。 ・日田創刊準備号『ヤブクグリ』1号刊行 ・『飛騨』東京ADC賞受賞
2013年
・ファーストユニバーサルプレス社との絵葉書プロジェクト 「First Universal Press and Makino Isao」開始 ・ヤブクグリ企画「きこりめし弁当」完成 ・「きこりめし弁当」東京ADC賞受賞
2014年
・『ヤブクグリ』2号・3号刊行 ・ヤブクグリHP完成 ・ヤブクグリ企画「かっぱめし弁当」完成
各地にて、個展/グループ展など多数
《牧野伊三夫 関連サイト》
ヤブクグリ http://yabukuguri.com/
美術同人誌 画家のノート 四月と十月 http://4-10.sub.jp/