2014.9.10 _ 2014.9.21
iTohenにて第276回目となる今展は、木版画を 表現の中心に据えて活動する豊田直子(とよた・なおこ)さんをご紹介致します。大阪での個展は初めてとなります。
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豊田さんの作品を初めて拝見する機会を得たのは、アルバス(九州:福岡警固・けご)を運営する写真家であり経営者である酒井咲帆さんに紹介して頂いた、小さな(しかし文化的な密度の高い)カフェ、コホンと言うお店でのことでした。
店主への挨拶を終え、ひとしきり談笑して店内のこだわりに目が届くようになって見つけたその絵は、ぼんやりした色彩で、でも人の顔だとはっきりと分かる大変不思議な存在感を放つものでした。違う用件で訪れたのにも関わらず、話を交わしながら、ずーっと、その絵を見ていました。
聞けば、九州で活動している女性だと言う。「欲しいなぁ。。」と思いつつも、少し冷却期間をおいて、また考えても遅くないだろうと、その時は帰る事にしました。
それから2年。
やはり、毎日の生活の中の所々に、その絵は僕の心に現れてきます。なぜなのだろう。。。 派手な絵ではありません。分かりやすくもない。に、しても何か引っかかる。
その引っかかりようは心地の良いもので、では、もっと多くの作品を観てみたいし、観てもらいたいと言う気持ちから今展に至りました。
豊田さんが木版画をするようになったのは学生時代の先生の作品に出会った事が契機となったそうです。いわゆる絵画へのアプローチの中で油彩や、水彩など様々な表現方法に着手されていたのでしょうが、そういった「本道」的なものより、「脇役」的な版画の存在やドローイングの方に心惹かれる自分がいたと言います。
実際に取り組んでみると自身の中のどこかにピタリとはまり込んだようで、それまでのもどかしさが払拭され、せき止めていた淀んだ水のようなものが一気に解放される様だったと教えてくれました 。
関東と言う町中で10年を過ごし、今は九州は福岡に拠点を構えて活動しています。 都会と地方では創造的な仕事に携わることに何か違いを感じるのだろうか、その点を豊田さんはどのようにお考えなのか?
ここで質問を投げてみました。
筆者)
学生時代は、関東。そして現在は福岡。制作をする上でこの環境の違いは何か影響がありましたか?
豊田)
関東にいた10年は、とにかく外からの刺激にわくわくしながら、いろんな街を歩き回って刺激を得て制作していた、という感じです。
福岡に来てからは、なかなか好きだったようなテイストのものに出合えず、制作のブランクがあった事もあり、しばらく苦しい時間を過ごしました。
今になってみると、その時間が自分の絵としっかり向き合うことに繋がったように思います。 福岡に住み始めてもうすぐ10年になりますが、ようやく今自分の絵を作っている、と実感しています 。
やはり物価が安く制作環境を作りやすい、という事はじっくりと取り組める大きな要因ですし、土地柄か親身に接してくださる方々からの影響も大きいと思います。
と、言う事は豊田さんと言う表現者にとって、「取り入れる」と言う作業は終了し、自身の中から静かに、こんこんと湧き出てくる「泉」に対して、丁寧に汲み取れる環境を掴んだ、と言うことなのでしょう。
都会というものに幻想を抱く時代は、実はとうの昔に終わっていて、では自分の身を置く相応しい場所は一体、どこなのだろう?そんな事を感じさせてくれたことが、僕が豊田さんの作品に興味を覚えた一因だったのかも知れません。
今展は新作ばかりを約25点、準備して下さいました。関西では初となる発表です。
美術館で作品鑑賞も良いですが、巷のギャラリーで、同時代を共に生きている一人の女性の仕事を見つめる事も、またご自身の中の広がりを見つける一手となるのではないでしょうか。
この機会に、是非ご覧頂けますよう、宜しくお願い致します。
記 iTohen 鯵坂兼充
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豊田直子(とよた・なおこ)
1973 徳島出身
2000 武蔵野美術大学油絵科版画コース卒業
2007 krank.marcello (福岡市)にて個展
2009 books kubrick (福岡市)にて個展
2010 books kubrick (福岡市)にて個展
現在、福岡市在住 木版の可能性を探りながら日々制作中