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酒井 咲帆 写真展 「いつかいた場所」

iTohenにて第247回目となる今展では、九州は福岡を拠点として活動を続ける酒井咲帆(さかい・さきほ)さんをご紹介致します。弊廊では初の展示となります。


カメラのレンズは広角が好きだ。
目の前に広がる風景の全体を把握できるから安心する。

でもそれはだんだん物足りなくなり、相手との距離を縮めながら、次第にカメラを手放し、相手に撮影を委ねたりもする。

私自身もあなたと一緒にいることを記憶しておきたいんだと思う。

私にとって撮ることとは、相手との関係を育むための手段の一つであり、それは必ずこの方法でなければならないと思ってはいない。

だけど手放せないのは、心が動くたびにシャッターをきるという行為が既に自分自身に備わってしまったからなのだろう。

そして、私の写真の多くに人が写っているように、興味は人に向けられ、次第に親しみを覚え、愛おしくもなる。その繰り返しが私の「写真」となり、それは私自身の物語でもある。

<記> 酒井咲帆


酒井さんとはひょんな出会いから親交が始まりました。九州は福岡の警固(けご)と言う、とても文化的に醸成された地区があります。意識の髙い本屋さんや、こだわりの雑貨店、編集プロダクションも全国に展開した雑誌の発行を手がけていたり。かと思えば昔風情の魚屋さんに、博多名物の屋台が夜の出動を控えてぽつーんと駐車されていたり。そんな所に酒井咲帆さんが代表を務める写真屋さん[アルバス]があります。風通しの良いエントランスを渡り、扉を開けばすぐ右手に調理をされる方々、左手にはその[アルバス]があり、写真のプリントサービスや、フィルム、本、カメラバッグ、アルバムの制作などいわゆる町の写真屋さんの呈をなしています。奥に抜けると気の利いた食事ができ、キシキシと小気味のよい音を出す階段を上がればギャラリースペースになっています。そのスペースでは、展示に限らず、勉強会やトークイベント、はたまた音楽会や時には家族写真を撮る場所に変身する自由自在な空間になっています。酒井さんが思っている進行形のものを実験する場所にもなっているようです。その点に、非常に興味を持ちシンパシーのようなものを感じました。

聞けば兵庫県は明石市の出身とだと言う酒井さん。九州大学で立ち上がったとあるプロジェクトに呼ばれ、よほど水があったのか、そのまま暮らしの根を張り、現在に至ります。

写真家としても同時に活動される酒井さんの作品に興味を持ったのは、実は「いま、地方でいきるということ」(西村佳哲 著/ミシマ社刊 2011年発行)を拝読してからです。なんの狙いもなく、買ってみた本に酒井さんのインタビューが掲載されていました。

その中に、彼女が撮り続けている被写体について書かれていたのです。いまを遡ること10年以上も前に友人の死を目の当たりにした酒井さんは、その友人が働いていた土地を訪ねて虻が島(富山県氷見市姿の東の沖合い1.8kmに位置する)がきれいに見える、富山県氷見市女良に渡ります。明確な目的もなく、でもカメラは携えていた酒井さんは移動手段にバスを選択していました。そこに降り立ったのは窓から子どもたちが見えたからだと言います。バス停は、子どもたちがいたところからちょっと先にあって、「あ、ここで降りよう!」と思って行動に移すまでにちょうどいい距離にバス停があったので降りられたそうです。

「ぼくらは“魚かいぞくだん”のかおり、なおき、さっち、ひさ。ここは虻ヶ島がきれいに見えるんだ」と、大げさかも知れませんが衝撃に似た出会いを果たしました。それ以来、毎年一度だけ彼らに会う機会を作られたと言います。

その経過や、交わった軌跡が写真を媒介にして定着されたものが今展の発表となっております。実は同名で2011年2月に水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室で開催された言わば巡回展のような形ですが、その時とは違い、写真展というより少し説明的な展示にすべきと考えているそうです。

是非、この機会に足をお運びください。ご来場、心よりお待ちしております。


<記>  iTohen 鯵坂 兼充

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酒井 咲帆 Sakiho Sakai

写真家/
1981年生まれ 福岡県在住
06年~09年に九州大学子どもプロジェクトに所属し居場所づくりに従事
その後、写真屋[albus(福岡県中央区警固)]をスタートし現在へ。

個展
2006 「つちのかみさま、たびにでた。」大阪
2009 「言葉を組む仕事-街の活版印刷所-」福岡
2012 「いつかいた場所」水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室
2013 「いつかいた場所」大阪市北区本庄西 iTohen

グループ展
2000 「再会」北海道
2004 「Soul of Afganistan-アフガンでこどもたちの写真展を開く-」大阪、ジャララバード