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きくちちき 展「墨・色・木」

iTohenにて第230回目となる今展では、関東を拠点に活動を続けるきくちちき氏をご紹介致します。
弊廊では初、また大阪での展示も初めてとなります。


2009年、東京西荻窪にある[6次元]という場所での個展がきくちさんの最初の作家活動となります。
この時の案内状が私の自宅に届いた時のことはよく覚えていて、嬉しさと同時に“ようやくきたか!(待ってました)”という思いもありました。
というのも、彼とはグラフィックデザイナーとして駆け出しで働いていた頃の同僚であり、10年以上付き合っている友人でもあったからです。その彼がようやく世に出てきた(失礼な言い方ですが・・)。高まる期待となぜかちょっぴり不安を抱えながら会場まで足を運ぶと、彼らしくマイペースでいつもと何ら変わることのない屈託のない笑顔で出迎えてくれました。

木を基調とした山小屋のような空間の奥に、ところ狭しと敷き詰められた絵。思えば纏まったカタチで、また公の場で彼の絵を拝見するのは初めてのことです。自然と気持ちが高揚しました。

展示されていたのは手製本でつくられた数種類の絵本とその原画でした。ヒト、動物、植物、昆虫、風景… 紙に描かれたそれらは、画面の中でいきいきと動きまわり非常に伸びやかで自由な印象を受けます。一見すると10年前とちっとも変わっていない様で、でも何かが違う。きちんと“一本の芯”が通っているように私は感じました。

その“何か”が、どうやら“絵本”であることに気づいたのは、数日後に彼から届いた「しろねこくろねこ」という手作りの絵本でした。(そういえば、ちゃんと《えほん展》と題していた… ごめん)
彼のやりたいこと、伝えたいことが“絵本”というとてもシンプルかつ無限に広がりのある造形物となったことが“一本の芯”を形成しているようでした。
それは彼がこの10年の中でようやく辿りついた一つの“答え”だったのかも知れません。

後日談ですが、彼がとある骨董市で出合ったというフランス人作家:M・ブーテ・ド・モンヴェルの絵本をみて「100年前のものを100年後の自分がこんなに感動できる」という事実に非常に衝撃を受けたそうです。フランス語で内容はわからなかったとのことですが、その絵とおそらく造本自体の美しさにも魅せられたのでしょう。心の奥底でふつふつと沸き上がる感情が、次第に絵本の創作へと心血を注ぐ結果となったようです。

絵本というのは不思議なもので、言葉がわからなくても文化が違っていても、抵抗なく受け入れることができる要素があり、年齢を問わず0歳から100歳まで誰しもが楽しむことができる希有な媒体です。そこには非常に多くの“気づき”や“可能性”が内包されており、むしろ大人こそ積極的に関わるべき“よみもの”だと言えるかも知れません。
今の時代、私はそこに希望すら抱いているほどです。

その後も東京を中心に個展と絵本の発表を続け、2012年2月に著書『しろねこくろねこ』を学研教育出版より刊行、また絵本作家:どいかやさんとの共著『やまねこのおはなし(イースト・プレス)』をほぼ同時期に発表するに至りました。

「あれよあれよと やんか…、きくちくん!!」

私個人としても彼の今後の活躍を大いに期待したいと思います。

今展は、『墨・色・木』と題し全て新作となる作品を披露いたします。
また期間中は、初日10/17、10/20、10/21の日程で在廊する予定です。

是非、この機会にご来場くださいませ。

iTohen 角谷 慶