STORE

iTohen

exhibition

past

高濱浩子展 「私書箱1284」

<紹介文>
子どものころの高濱浩子に会ってみたいものだとずっと思っていた。
遊び場は雑然とした商店街の路地裏。祖父が営む文具店。
紙の束や色鉛筆をうっとり眺めていた。

所在ない時間はひたすら、終わることのない道や蟻の巣のようにひろがる町の絵を描き続けた……
幼少時代の物語をついさっきあったことのように彼女は話す。

なかでも貿易商だった父親について語るとき、大きな瞳はいっそう見開かれ、きらきら光る。

神戸中央郵便局p.o.box1284。

私書箱が並ぶ薄暗い「秘密の部屋」から出て来た父親の手には、異国から届いたエアメール。
いろとりどりの美しい切手を眺め、小さな高濱は空想世界へ旅立って行った。

■ 使用ずみの切手をモチーフに「色」と「線」で構成したオリジナルのポストカード作品「旅する切手」シリーズ(三木重人とのユニット・ゼンマイカムパニー/1999~)、近年積極的に手がける舞台美術や衣装デザインなど、高濱浩子は色とかたちを介した他者とのコラボレーションを楽しむ。
一方、20代前半から画家として生きてきた彼女は、南の島や小さな町に旅しながら、途切れることなく絵画作品を発表してきた。
特に最近の作品(柘榴/2005~2006、あおいまち/2006)には、おしつけがましくないのに、時間を忘れて見入ってしまう強い力がある。 炎のゆらめきや夜の池の水面がもつような力だ。

■今回の「私書箱1284」で、きっと誰もが「あのころ」の高濱浩子に会うことができるだろう。
「秘密の部屋」から現れたのは父親ではなく彼女自身。 その手には、ひとつの旅の終わりと次の旅に続くしるしが刻まれた大切な葉書。
かつて一人の貿易商のもとに届いた美しい切手が、色とかたちに出会ったばかりの彼女の空想図をまたここに届けてくれたのだ。 そしてあのころ郵便局から旅に出かけた少女もいっしょに、いま戻ってきたらしい。

<記>ブックギャラリー ポポタム 大林えり子

井原麗奈
京都芸術センター
アート・コーディネーター
このハガキで、誰にどんなメッセージを伝えようか? 大切な人との楽しい対話を想像させてくれる高濱さんの作品は、人と人との コミュニケーションの原点を見つめなおすきっかけを与えてくれます。 作品を通じた高濱さんと亡きお父様との温かい対話が、見る人の心にも、 ほんのりとした心地良さを与えてくれるのでしょう。 当初の役割を終えたモノに二次的な役割を与え、新たな繋がりを創造していく 過程を楽しむ。芸術の真の在り方が、ここに提示されていると思います。
大竹昭子
文筆家
高濱浩子は、わたし、わたし、と言わない。
わたしを見て、なんてぜったい言わない。
切手が貼ってある、たったそれだけのことがもたらす無名性と、 そこに潜む謎のほうに惹かれる人。未来を見つめる人。
清田央軌
雑誌編集者
高濱さんからの葉書は、非公式ルートで “心の私書箱”に配達される、特別な郵便物。 古いDM類は取り除き、私書箱をクリーンにして 展覧会を楽しみたいと思います。
佐渡裕
指揮者
浩子ちゃんは、人を惹きつけるものを一杯持っている。
繊細さ、豊かな感性、どれを取っても高濱浩子なのだけど、なによりも彼女しか 持たない色がある。
それは彼女に出会えば誰でも感じることだけど、アホらしいほど当たり前なことに 感動する彼女と、時たま見せる、深く深く何かを感じ取っている彼女が、 交互に現れるからだろう。
彼女がキャッチした何かを、言葉の上の解決ではなく、まるで霊的とでもいえる 彼女自身の表現法で、色という手段を使って、僕らを彼女独自の世界に 惹きつけてしまう。 彼女の個展に行くたびに、僕は新しい彼女に出会う。最近の作品を見ていると、まる で彼女の子供の頃を見ているように思う。
白いノートにただクレヨンで何かを描き続けていた浩子ちゃんがそこにいる。
下田展久
C.A.P.
(NPO芸術と計画会議)
ディレクター
オイルタンクが三つ描かれたNIGERIAの切手が貼られ、 その上に赤くて黒い火?が描かれている。
此処とは全然違う別の現実が同時にあるんだなあ、、、と思う。
そうか、彼女は小さい頃から私書箱の切手に乗ってそんな異国を見てきたに違いない! 納得。
登張正史
中央公論新社書籍編集局
私書箱………。
何かミステリアスな語感に魅せられるのは私だけだろうか? 見知らぬ人から? 別れた人から? そしてこれから出逢う人から?  人々から届いたメッセージは覚醒されるまで箱のなかでうたた寝をし、蠢く。
しかしながら誰も私書箱を覗き見することはできない。 なぜなら高濱はパンドラのように封印を解くのではなく、小さい穴からの光と空気だ けを頼りに永遠に箱のなかに生息し、多様なメッセージと戯れるのであろうから。
深川和美
ソプラノ歌手
汗もぬくもりも唾液もかかって旅した郵便物。
朝のラッシュのように押し合いへし合 い、くちゃくちゃになりそうになるのをこらえて旅して、小さな秘密の安全な箱へと辿り着く。
はははっ、かわいい。ご苦労さまです、と切手に言いたくなる。
彼女はそんな旅する切手と自分を重ね合わせて愛情を注いでるのではないだろうか。 身近にいる友人からの見解。
村上美香
コピーライター
高濱ひろことは春に逢いたくなる。
土の中に春が蠢く頃に引き寄せられるように逢ってしまう女だ。

血から、ちから。地から、ちから。咲いていく、ちから、裂いていく、ちから。 散る、ちから。春を子宮に宿す、やはり女だ。春便りの、女だ。

高濱浩子 TAKAHAMA,Hiroko
1969年神戸元町生まれ。
嵯峨美術短期大学日本画科卒業。

画家、美術家として活動する一方、近年は舞台作品に美術家、衣装デザイナーとして参加。
1999年バイオリニスト三木重人とのユニット「ゼンマイカムパニー」結成。

■[絵画展]
2006年「部屋」ギャラリー島田(神戸)
2005~6年「柘榴」ギャラリー島田(神戸)/ art space 188 WOMB(大阪)/
NADiff modern(東京)他多数

■[舞台美術と衣装]
ひょうごオリジナル音楽公演・佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ予告編
「歌おう、踊ろう『ヘンゼルとグレーテル』」(兵庫芸術文化センター)
継ぐこと・伝えること番外編「青頭巾」(京都芸術文化センター)

■代々文房具店を営む家で、貿易商の父と北海道開拓民の血を引く母のもとに生まれ育つ。
港の気配を感じながら、父のタイプライターを遊び道具に、幼少時代を過ごす。
姉の影響で舞台や美術に興味を持ち、美術大学に進学。卒業後、定期的に絵画作品の制作発表をはじめる。

現在は、画家、美術家として活動するほか、舞台作品に美術家、衣装デザイナーとして積極的に参加。
民族学や地形に興味がある。無類の旅好き。

TAKAHAMA,Hiroko Official Web Site