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稲葉崇史展「かたりべ」

<紹介文>
第45回目となる弊廊での企画展では、関西を拠点に活動を続ける木工作家である <稲葉崇史>をご紹介致します。

立命館大学法学部出身という、少々異色の稲葉は卒業後、すぐに某大手建築メーカーに就職する。
ところが、そこで日々の仕事の中で自分の責任について疑問を持ち始めることになる。

彼が置かれた<営業>というポジションは仕事の性格上、個人の意識とは関係なく業績を上げる為にあらゆる手段で売って行かなければならないだろう。
そう言ったジレンマを重ね静かに沈殿させていくうちに彼の中に拭い去れない“澱”のような物が出来ていたのかも知れない。
そこで彼が出した打開策は“自らの手で何かを創る”といったことだった。

「だから、実は木工でなくても良かったかも知れないんです。」と語る稲葉の言葉が実に印象的である。
後に某職業訓練校の案内を見つける。
地元に近く、また以前の知識や反省点も有効利用できると思い至った稲葉は、そこで1年間の基礎知識を身につける。
卒業後、すぐに独立。アトリエを奈良に構え、受注制作に没頭することになった。

しかし、「技術的な事を考えたら、その時に購入してくれたお客さんには至らなかった事をしていたかも知れない。でも、一生懸命には変わりなかったんです。」
それは、現在の彼のアトリエを拝見すれば、言っている信憑性も一目瞭然という印象を私は持ったのだ。

しかし、当然の様にひっきりなしに注文が来るわけではない。
個展での発表で、新規顧客の獲得へと前向きに取り組むようになったのは、必然的な流れだろう。

本展の準備のため彼のアトリエを訪問し、少しばかりの時間を掛けて稲葉の作った椅子に腰掛けてみると、使い手の事に重きを置いてることが充分に伝わってくる。

知らずに自分が雄弁になっていくのに気付き、あたかも『語り部』の様に彼に向かって同じ話を何度もしている事に驚きもしたのだ。

稲葉の家具は、正直扱い安いといった代物ではない。
しかし、彼の手を通して一つ一つ丁寧に組まれた椅子を取ってみても、これから重ねて行くであろう年月の経過と共に、それを木の年輪になぞらえつつ、かけがえのない友人を手に入れた心境になるのではないかと考えるのだ。

<記>skky_鯵坂兼充

稲葉 崇史 INABA,Takafumi
1971年生まれ。
1995年  立命館大学法学部卒業後、住宅業界に就職
1999年  奈良県立高等技術専門学校工芸科入学 翌3月卒業
2000年  生駒に<INABA WOOD WORKS>を設立
2003年  奈良町物語館にて個展「木の家具展」開催
2004年  学園前コムズギャラリーにて個展「木の家具展」開催
~他現在までに多数。

現在、京都府精神保健福祉総合センター:精神科デイケア及び
学校法人丹青学園・作業療法学科にて非常勤講師兼務