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塩川いづみ 個展「Tales」

iTohenにて第288回目となる今展では、関東を拠点に活動する塩川いづみさんをご紹介致します。松井一平さんと同様、ここiTohenでは初めての展覧会となります。
ずいぶん以前から、気になっていた作家の一人。 イラストレーションの現場を中心に活動していらっしゃるとは思いますが、 その仕事は媚を感じません。

簡素な線で表現される事を得意にされるようですが、 その線の多彩な表情に興味を覚えました。 なぜ、このような表現をされるのか?なぜ、イラストレーション(商業美術)に身を置きながらも、個展などで積極的に発表されるのか?そんな疑問と興味が募り今展に至りました。

幼少期の誰もがそうであるように、塩川さんにとっても絵を描く作業は何より楽しい時間を過ごす方法だったようです。積極的に絵描きになってやろうという 『力技』というより、流れに身を任せていたら、そうならざるを得なかった。これまでの経緯をそのように教えてくれました。

でも美術大学に在籍していた時には、グラフィックデザインを学ばれたと言います。それが段々と自身にとって美術的な意味合いを持ち始めたのか、本格的に制作に没入するきっかけになったそうです。そして前述のように川の流れに逆らわずにいたところ、ひょんな事からイラストレーターとしての道を歩むことになりました。

クライアント(依頼主)からの注文に応じて描く図説的な意味をたぶんに含むイラストレーションと、自分のために描くものとは、力の入れ具合こそ同じでも気にかける方向性や軸に似たものとは一線を画すようです。作品制作(言わばクライアントが自分自身と思えば良いのでしょうか)の時には、仕事で培ったものをあえて捨てて、挑むと言います。

と、いうことは、何か言葉に言い難くとても表現しづらい『欲』があるのかも知れません。現状に満足しない。またルーティンワークに陥らないための塩川さんなりの方法なのかも知れません。

ストイックなアスリートのように、仕込みに手を抜かない料理人のような姿勢がこれまでの塩川さんをかたどってきたようです。

そうか、だから魅力を感じるのか、と膝を打つように合点がいきました。 実直だから、実直な線を描く。考えたら当たり前のことですが、効率を優先する今の社会において、生きづらい選択のようにも思えます。

でも、あえて非効率を取り入れる。それが個展を通じて発表される作品のようです。

ありがとうを言われたら、ありがとうと返す。
ごめんと言われたらごめんネと。

触れ合う相手にごまかしなど加えず、そうやって生きてこられたのかも知れません。

そんな人物の描く絵を、ぜひご自分の目でご覧になってください。

記載_iTohen 鯵坂兼充


塩川いづみ
 Izumi Shiokawa

イラストレーター
1980年長野県生まれ
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒
2007年よりフリーランスで活動をはじめる
東京在住