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森口宏一 展

小品展[2004年~2008年] あとさき

iTohenは壁一面が美術関係の書棚、その奥に小さいスペースながらギャラリーもあっ
て、コーヒーも飲めるくつろげるお店である。その後の小部屋はグラフィックデザイ
ンSKKYの仕事場になっている。
場所はごくありふれた大阪の下町、北区本庄西二丁目にあるのだが、ここから東へ五、
六分も行くと天神橋筋商店街、それも天六交差点に出る。私はこの商店街の五丁目に
洋服小売商の長男に生まれ、近隣の小学校、いや国民学校を卒業し、戦争が激しくなっ
た奈良中学の時代を除いて、戦後もこの商店街の六丁目に戻って住んだ忘れられない
街である。
三十九才の時に、地下鉄御堂筋線の中津駅に近い豊崎三丁目に越したのだが、その地
もiTohenから西へ五、六分、東へ向くか、西へ歩くか、豊中市へ移る五十五才迄住ん
だ大阪市は、この近隣でうろうろしていたことになる。

こうした地理的な縁以上に、このiTohenとSKKYを運営しておられる鯵坂兼充さんは、
私のパソコンの先生である。以前からパソコンの領域、機能だけでも知っておきたい
思いにかられていたのだが、2003年であったか、あらためて紹介されたのが鯵坂さん
であった。
あらためてと云うのは、前々から私の制作に係っていてくれていたのだが、彼は親切
にも梅田のヨドバシカメラまで私を連れて行き、パソコンやプリンターの購入、アト
リエへの設置迄してくれた。
習い始めて一年もした頃か–東京の渡辺豊重さん、江口週さん、眞板雅文さん、関西
の栄利秋さん、井田彪さんらから“彫刻家の平面”と、制作を楽しめる小品でのグルー
プ・ショーはどうかと誘われた。これを機会に、デジタルがつくり出す空間と、質量
を伴う目の前の事物を並置させてはと、そんな発想が制作をうながし、毎回数点の作
品を出品しているうちに連作となっていった。このグループ展は、2004年から東京、
京都、奈良、京都、東京、京都と、たまに会って飲むのも楽しみの一つにしながら昨
年迄続いた。私の作品は、デジタルカメラで撮りプリントされた画像と、パソコンで
処理された画像、手作業による絵画的な、時には物そのものを並置させて一枚の額に
収める展開である。
今あらためて見直すと当初の作品は、この意図に真っ正面向いた意気込み、気負いが
感じられるが、2006・7年頃からの作品にちょっとしたウィット、小品の楽しさを観
てもらえれば幸いである。

今回の個展は、この5年間の連作から選んで未発表の作品もあるが、大阪や京都で
の出品もあるので既に観て頂いた作品も混じるかもしれないが、一連の流れとしてあ
らためて見詰め直す機会にしたい。

ところで、この一連の作品の制作は、写真の藤本直也さん、写真のデジタル処理をし
て頂いたSKKYの鯵坂さん、変型の額装を心よく引き受けて頂いた、私の関西大学時代
からの友人である(株)カナタの金田明治さん等の協力があってのことである。
あらためて、御礼を申し上げます。本の出版には“あとがき”があるが、個展に“あ
とがき”と云うのも変なもので、“あとさき”としたが、この発表が出来たことへの
御礼を書きたかったことも、この小文を書いた理由である。

2009年2月 森口 宏一

iTohenにて第140回目となる今展では、関西を拠点に1950年代から精力的に今もなお、活動を続けている森口宏一(もりぐちひろかず)氏ををご紹介致します。

皆様、是非ともご高覧下さいますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。