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YU YAMAMOTO展「ピアノ・ブラック」

<紹介文>
今回、iTohenにて、関西を拠点に活動を続けるYU YAMAMOTO氏を2月20日(水)から3月2日(日)までの間にご紹介致します。


とある鳥籠があるとする。主人の愛情も行き届いた清潔に保たれた鳥籠だ。
そこに、小さく従順に暮らす四十雀(シジュウカラ)がいたとしよう。

少しづつ成長していく四十雀にとって、その“鳥籠” という空間は当然のことながら手狭になってくる。エサも食べにくいし、羽根を広げるにもちょっと物足りなくなってきた。おかげで、羽根には小さな虫もついてきたようだ。かゆくて眠れない日もある。もどかしい・・。

とある日。ふとしたいたずらな事故でその鳥籠が落下した。
偶然にも入口が空いたままの状態で壊れてしまった。羽根を心おきなく伸ばしてみたい。
何よりコソコソと悪さをする小さな虫を追い出したい。
それだけの欲望で飛び出してみる。 まだ主人の帰宅には時間があるようだ。
振り返り、自分の暮らしてきた“家”の小ささに驚いてしまう。引き返して従順で安定した生活を続けるのか、はたまた鳥として生まれた自分の能力に向き合ってみるのか・・・。

彼女と話をしているうちに、そのようなイメージが脳裏に浮かんだ。今展はまさに「鳥として生まれた自分に向き合う」為の機会に他ならない。
だが彼女が打合せの度に持参する作品の量には、その誠実なまでに己に向き合った結果が見て取れる。
自身の能力で生きていくための最初の営巣地が、<iTohen>と言うわけだ。


彼女の作品は主に水彩を中心とした表現だが、中でも作品のサイズは小さいとは言え、モノクロームの作品が、ことのほか線が生き生きとしている。人々をかたどった線も、量感を表した面も、とても清々しく、上質なピアノのような漆黒で彩られている。“黒”に対して彩りとは不適切な表現かも知れないが、不思議と色彩を感じるのだ。
羽根を筆に置き換え、くちばしをペンの代わりに飛び回る四十雀。インクにまみれながらも目をキラキラと輝かせるその鳥は、ますます逞しくなっていくのであろう。

<記> SKKY/iTohen 鯵坂兼充