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佐藤 貢 個展「朝」

<紹介文>

今回、iTohenにて第32回目となる企画展では、和歌山を拠点に精力的に活動を続ける佐藤貢(さとうみつぐ)氏をご紹介致します。

昨年の同時期に幣廊と、中津に拠点を置き 建築・デザイン制作を主軸としたギャラリー機能をも併設するサロン<パンタロン>にて同時開催したのが、彼にとっての初のまとまった発表となった。
予想以上の反響に筆者である私自身も驚いたのだが、それ以上に作家本人にとって大きな原動力になった事には間違いない。

そして夏、東京で古書と古家具を取り扱うlim Art(リムアート)が渋谷区恵比寿南に移転した記念すべき最初の企画展へと発展し、そして初秋 大阪府枚方市星ヶ丘のSEWING TABLE COFFEE(ソーイングテーブルコーヒー)での企画“月がほしい。”と2005年を締めくくった。

そして今展は新作のみ約30点を携え、約半年振りの発表となる。

佐藤氏の住まう和歌山県新和歌浦という所は、「海」とは切っても切れない縁のある場所と言えるだろう。彼の作品に扱われる素材(ゴミやら廃品やら)は波や海風により色々な所を彷徨った後 自然に、まるで当たり前のように彼のアイデンティティーを象徴するかのごとく、身辺のそこかしこに落ちている。
制作の糧となるインスピレーションが得られる事を心待ちにしながら砂浜を歩き続け、それらを拾い、貼り付け、また拾い、組み立て、考え・・・とそうした一見単純かと思える気の遠くなるような作業を経て彼の作品は成立し、ある一つの形を成す。

<ジャンク・アート>と言えばそれまでだが、しかし彼の作品の裏側から聞こえてくる微量な音や声は、それとは対極の所にあるように思われてくる。
つまり、物 そのもので観覧者の心理に投げ掛けるのではなく、彼の作品からは言葉や詩が私達、観る側のこちらに喚起してくるのだ。むしろ視覚よりも聴覚を刺激されたような錯覚に陥る。
昨年と比べ、作品そのものの「身」がより削ぎ落とされ、代わりに「色彩」を感じるようになったように私は感じた。それによく登場する放射状の形は「光」を意識したものだと言う。そういった形態の変化は第三者へ、また自分自身への“積極的な”期待の裏切りを考えてのものだと言う。
そうやって彼は創作に対しての情念を、まるで消してはいけない送り火のように、絶えず焚き続けているかのようだ。

イメージそのものは、彼が丁寧に絞り出すように作り上げたまっさらな“便箋”や“封筒”といった、何も文章が書かれていないもののように思えてくる。佐藤の作品に触れる人それぞれが、表現することに対して恐れることなく自分の言葉や言い回しで書き始め、推敲し、郵便ポストに投函した時に初めて感じ取れるものなのかも知れない。

果たして私は、彼の準備してくれる肌触りの上等な“便箋”に何を書こう。
少しでも真っ直ぐで自分を飾り立てる事がなく、気持が透明になれるように努めて書いてみることに挑戦してみようと、心を新たにするのだ。

<記> SKKY 鯵坂兼充

 

<履 歴>
佐藤 貢 SATO,Mitsugu
1971年生まれ。
1992年  大阪芸術大学美術学科 中退。
1994年~ 中国よりアジア諸国、アメリカ、中南米諸国などを放浪
1998年  和歌山市へ移住後[流木]を用いて作家活動を再開
1999年~ 毎年、年に一度 和歌山市にてグループ展に参加
2005年  第1回個展(大阪:iTohen 同時開催:中津PANTALOON
同年7月  巡回展(東京:limArt
同年9月  企画展/月がほしい。(枚方市星ヶ丘:SEWING TABLE
※5月24日(水)~6月11日(日)の間、巡回展をPANTALOONにて開催